中級編

グルーヴの作り方

「グルーヴ」とは、聴いていて思わず体が動いてしまうような、ビートの心地よさのことです。 同じパターンでも、グルーヴがあるかないかで全く印象が変わります。

スウィングとは?

スウィングは、偶数番目の音を少し遅らせることで生まれる「揺れ」のことです。 ジャズやソウル、ヒップホップなど多くのジャンルで使われる重要なテクニックです。

スウィングなし vs あり

スウィングなし(機械的)

チッ・チッ・チッ・チッ

均等な間隔

スウィングあり(グルーヴィー)

チッ・・チッ・チッ・・チッ

偶数が少し遅れる

// スウィングを使ったグルーヴィーなビート
bpm 95
swing 0.2  // 0.0〜1.0 で調整

pattern groove {
  kick:  [x . . . x . . . | x . . . x . . .]
  snare: [. . . . x . . . | . . . . x . . .]
  hihat: [x . x . x . x . | x . x . x . x .]
}

play groove * 4
試す

プロのTip: スウィングの量はジャンルによって異なります。 ジャズは強め(0.3〜0.5)、ヒップホップは軽め(0.1〜0.2)が一般的です。

シンコペーション

シンコペーションは、通常アクセントが来ない位置(裏拍)に音を置くテクニックです。 予想を裏切るリズムが、ビートに緊張感とドライブ感を与えます。

bpm 100

pattern syncopated {
  // 通常: 1拍目と3拍目にキック
  // kick:  [x . . . x . . . | x . . . x . . .]

  // シンコペーション: 裏拍にキックを入れる
  kick:  [x . . x . . x . | . x . . x . . .]
  snare: [. . . . x . . . | . . . . x . . .]
  hihat: [x . x . x . x . | x . x . x . x .]
}

play syncopated * 4
試す

シンコペーションの図解

1拍目 2拍目 3拍目 4拍目
x . . x . . x . . x . . x . . .

黄色の「裏」の位置にキックを入れることで、予想外のリズムが生まれる

プッシュとプル

プロのドラマーは、わずかにタイミングを「前のめり(プッシュ)」にしたり「後ろにずらす(プル)」ことで、 曲のエネルギーをコントロールします。

プッシュ(前のめり)

エネルギッシュ、興奮、緊張感

EDMのビルドアップ、ロックのサビなど

プル(後ろにずらす)

リラックス、レイドバック、チル

ヒップホップ、R&B、レゲエなど

実験してみよう

同じパターンでswingの値を 0.0 → 0.1 → 0.2 → 0.3 と変えてみてください。グルーヴの変化を感じられるはずです。

ダイナミクスと表現力

プロのビートと初心者のビートの最大の違いはダイナミクス(強弱)です。 全ての音が同じ音量だと、機械的で退屈なビートになります。

ベロシティの使い分け

kickstartでは、x[0.0〜1.0]でベロシティ(音の強さ)を指定できます。

記法 ベロシティ 用途
X 1.0(最大) アクセント、強調したい音
x 0.8 通常のヒット
x[0.5] 0.5 控えめな音
x[0.3] 0.3 ゴーストノート(後述)

ゴーストノートとは?

ゴーストノートは、聴こえるか聴こえないかギリギリの小さな音です。 特にスネアで使われ、ビートに「隙間を埋める」役割を果たします。

bpm 95
swing 0.15

pattern with_ghost {
  kick:  [x . . . x . . . | x . . . x . . .]

  // ゴーストノート入りスネア
  // メインのスネア(X)と小さなゴーストノート(x[0.3])
  snare: [. . x[0.3] . X . x[0.3] . | . x[0.3] . . X . . .]

  hihat: [x . x . x . x . | x . x . x . x .]
}

play with_ghost * 4
試す

プロのTip: ゴーストノートは0.2〜0.4程度のベロシティが効果的です。 強すぎるとゴーストノートの意味がなくなり、弱すぎると聴こえません。

ハイハットの強弱パターン

ハイハットに強弱をつけると、一気にプロっぽいビートになります。 基本は「表拍を強く、裏拍を弱く」です。

bpm 100

pattern hihat_dynamics {
  kick:  [x . . . x . . . | x . . . x . . .]
  snare: [. . . . x . . . | . . . . x . . .]

  // ハイハットの強弱パターン
  // X=強、x=中、x[0.5]=弱
  hihat: [X . x[0.5] . X . x[0.5] . | X . x[0.5] . X . x[0.5] .]
}

play hihat_dynamics * 4
試す

ダイナミクスのパターン例

クレッシェンド(だんだん強く)

フィルインやビルドアップで、徐々に音量を上げていくテクニック。

pattern crescendo_fill {
  // だんだん強くなるスネアロール
  snare: [x[0.3] x[0.4] x[0.5] x[0.6] | x[0.7] x[0.8] x[0.9] X]
}

アクセントパターン

特定の位置にアクセントを置いて、リズムに特徴を出す。

pattern accented {
  kick:  [X . . . x . . . | x . . . X . . .]
  snare: [. . . . X . . . | . . . . X . . .]
  // 1拍目と3拍目の頭にアクセント
  hihat: [X . x . X . x . | X . x . X . x .]
}

ダイナミクスの黄金ルール

  • 全ての音が同じ音量 = 退屈
  • 重要な音を強く、それ以外を控えめに
  • 強弱の差は意外と大きくつけてOK
  • 迷ったら「表拍強く、裏拍弱く」

確率的ステップ

確率的ステップは、ヒットが「確率で」発生する機能です。 再生するたびに異なるパターンが生まれ、ビートに「人間味」や「揺らぎ」を加えられます。 TidalCyclesなど他のビートプログラミング言語でも採用されている定番機能です。

基本的な使い方

x?と書くと、そのステップは50%の確率で鳴ります。 再生ボタンを何度か押して、パターンが変わるのを確認してみましょう。

bpm 95
swing 0.15

pattern prob_basic {
  kick:  [x . . . x . . . | x . . . x . . .]
  snare: [. . . . x . . . | . . . . x . . .]

  // x? = 50%の確率でヒット
  // 再生するたびに異なるパターンになる
  hihat: [x x? x x? x x? x x? | x x? x x? x x? x x?]
}

play prob_basic * 4
試す

確率を指定する

x?[0.3]のように確率値を指定できます。 0.0(絶対に鳴らない)〜1.0(必ず鳴る)の範囲で設定します。

記法 確率 用途
x? 50% デフォルト、ハイハットの揺らぎなど
x?[0.7] 70% 高確率、ほぼ鳴るがたまに抜ける
x?[0.3] 30% 低確率、時々入るアクセント
X? 50% アクセントにも適用可能
x[0.5]? 50% ベロシティ0.5のヒットが50%で発生
x[0.3]?[0.4] 40% ベロシティ0.3のヒットが40%で発生
bpm 100

pattern prob_custom {
  kick:  [x . . . x . . . | x . . . x . . .]
  snare: [. . . . x . . . | . . . . x . . .]

  // x?[0.3] = 30%の確率でヒット
  // 数値が小さいほど鳴りにくい
  hihat: [x x?[0.7] x x?[0.3] x x?[0.7] x x?[0.3]]

  // ゴーストノートにも確率を適用
  perc:  [. x[0.3]?[0.5] . x[0.3]?[0.5] . x[0.3]?[0.5] . x[0.3]?[0.5]]
}

play prob_custom * 4
試す

人間らしいビートを作る

確率的ステップの真価は、「完璧すぎない」ビートを作れることです。 実際のドラマーは毎回まったく同じ演奏はしません。確率的ステップで、その「揺らぎ」を再現できます。

bpm 90
swing 0.2

pattern humanized {
  kick:  [x . . . x . . . | x . . . x . . .]
  snare: [. . . . X . . . | . . . . X . . .]

  // 確率的ステップで人間らしさを追加
  hihat: [X . x? . X . x? . | X . x? . X . x? .]

  // ランダムに入るゴーストスネア
  // x[0.3]?[0.4] = velocity 0.3 のヒットが40%で発生
  ghost: [. x[0.3]?[0.4] . x[0.3]?[0.3] . x[0.3]?[0.4] . x[0.3]?[0.3]]
}

play humanized * 4
試す

プロのTip: 確率的ステップは、メインのビートではなく 「装飾音」に使うのがコツです。ゴーストノート、パーカッション、オープンハイハットなど、 「あってもなくてもいい」音に適用すると自然に聴こえます。

確率的ステップの活用シーン

  • ハイハットの揺らぎ - 裏拍を x? にして自然なグルーヴ
  • ゴーストノート - 低ベロシティ + 確率で繊細な表現
  • ランダムパーカッション - 毎回違うアクセントで飽きさせない
  • ローファイ感 - 不規則なパターンでレトロな雰囲気

サブディビジョン

サブディビジョン(細分化)は、1ステップをさらに細かく分割するテクニックです。 トラップのハイハットロールや、ドラムンベースの高速リズムに欠かせません。

基本的な使い方

{x x}のように波括弧で囲むと、 その1ステップが細分化されます。

bpm 140

pattern subdivision_demo {
  kick:  [x . . . x . . . | x . . . x . . .]
  snare: [. . . . x . . . | . . . . x . . .]

  // {x x} = 1ステップを2つに分割(32分音符相当)
  hihat: [x . x . {x x} . x . | x . x . {x x} . x .]
}

play subdivision_demo * 4
試す

さまざまな分割パターン

記法 分割数 用途
{x x} 2分割 32分音符、ダブルストローク
{x x x} 3分割 トリプレット(3連符)風
{x x x x} 4分割 64分音符、高速ロール
{x . x} 3分割(部分) シャッフル風

トラップのハイハットロール

トラップミュージックの特徴的なハイハットパターンは、サブディビジョンをフル活用しています。

bpm 140

pattern trap_hihat {
  kick:  [x . . . . . x . | . . x . . . . .]
  snare: [. . . . x . . . | . . . . x . . .]

  // トラップ定番のハイハットロール
  hihat: [{x x} . {x x} . {x x x} . x . | {x x} . {x x} . {x x x x} . . .]
}

play trap_hihat * 4
試す

ドラムンベースの高速ビート

ドラムンベース(160〜180BPM)では、サブディビジョンを使って複雑なブレイクビートを作ります。

bpm 174

pattern dnb_break {
  // 複雑なキックパターン
  kick:  [x . . x . . x . | . x . . x . . .]

  // ブレイクビート風のスネア
  snare: [. . x . . . . x | . . x . . x . .]

  // 高速ハイハット
  hihat: [{x x} {x x} {x x} {x x} | {x x} {x x} {x x} {x x}]
}

play dnb_break * 4
試す

サブディビジョンとベロシティの組み合わせ

サブディビジョン内でもベロシティを変えられます。これで自然なロールが作れます。

bpm 140

pattern natural_roll {
  kick:  [x . . . x . . . | x . . . x . . .]
  snare: [. . . . x . . . | . . . . x . . .]

  // ベロシティでロールに表情をつける
  // 最初は弱く、最後は強く
  hihat: [x . x . {x[0.5] x[0.7] x} . x . | x . x . {x[0.4] x[0.6] x[0.8] X} . .]
}

play natural_roll * 4
試す

サブディビジョンのコツ

  • 使いすぎると混雑する。ここぞという場所で効果的に
  • 高速BPMほどサブディビジョンが映える
  • ベロシティを組み合わせると自然な演奏に近づく
  • トラップなら3〜4分割、ドラムンベースなら2分割が定番

変換関数

変換関数を使うと、シーケンスを動的に変更できます。 パイプ演算子|を使って、簡単にパターンを変形させましょう。

パイプ演算子の基本

シーケンスの後に| 変換関数名を追加するだけです。

bpm 120

pattern transform_demo {
  // reverseでシーケンスを逆順に
  kick:  [x . . . x . . .] | reverse

  // fast(2)でシーケンスを2倍速に
  snare: [. . . . x . . .] | fast(2)

  // rotate(2)でシーケンスを2ステップ回転
  hihat: [x . x . x . x .] | rotate(2)
}

play transform_demo * 4
試す

主な変換関数

関数 説明
reverse シーケンスを逆順に [x . . .] → [. . . x]
fast(n) n倍速(n回繰り返す) [x .] | fast(2) → [x . x .]
slow(n) 1/n速(nステップごとに1つ) [x . x .] | slow(2) → [x x]
rotate(n) nステップ回転 [x . . .] | rotate(1) → [. . . x]
shuffle ランダムにシャッフル 毎回ランダム順
invert ヒットとレストを反転 [x . . x] → [. x x .]
degrade(p) 確率pでヒットを消す ランダムに音が抜ける
every(n, t) n回ごとに変換tを適用 周期的にバリエーション

ユークリッドリズム

euclidean(k, n)は、n個のステップにk個のヒットを 数学的に最も均等に配置したリズムを生成します。 世界中の伝統音楽のリズムが、この法則に従っています。

代表的なユークリッドリズム

E(3,8)

キューバのトレシージョ

E(5,8)

シンコペーションビート

E(2,5)

ペルシャのシンキット

E(7,12)

西アフリカのベルパターン

bpm 120

pattern euclidean_demo {
  // ユークリッドリズム E(3,8) - キューバのトレシージョ
  kick:  euclidean(3, 8)

  // ユークリッドリズム E(5,8) - シンコペーション
  snare: euclidean(5, 8)

  hihat: [x . x . x . x .]
}

play euclidean_demo * 4
試す

every - 周期的な変化

every(n, transform)を使うと、 n回に1回だけ変換を適用できます。ループに変化を加えるのに最適です。

bpm 120

pattern every_demo {
  // 通常のキック
  kick:  [x . . . x . . .]

  // 2回に1回だけreverseを適用
  snare: [. . . . x . . .] | every(2, reverse)

  hihat: [x . x . x . x .]
}

play every_demo * 8
試す

プロのTip: every(4, reverse)every(8, rotate(1))を使うと、 ループが単調になるのを防げます。

変換のチェーン

複数の変換を|で繋げることができます。 また、変換とエフェクト(>)を組み合わせることも可能です。

bpm 130

pattern chain_demo {
  // 複数の変換をチェーン
  kick:  [x . . . x . . .] | fast(2) | rotate(1)

  // 変換とエフェクトの組み合わせ
  snare: [. . . . x . . .] | fast(2) > reverb(0.3)

  // shuffleでランダム化
  hihat: [x . x . x . x .] | shuffle
}

play chain_demo * 4
試す

変換関数の活用ヒント

  • euclideanで複雑なリズムを簡潔に表現
  • everyでループに変化をつける
  • shuffledegradeで予測不可能な要素を追加
  • 変換はエフェクトの前に適用される([...] | fast(2) > reverb(0.3)

ピッチ・音階

kickstartでは、サンプルにピッチ(音高)を付けることで、メロディやベースラインを記述できます。 スケール(音階)を設定することで、調性のある音楽を作成できます。

ノート記法

C4のように、ノート名+オクターブで音程を指定できます。 シャープは#、フラットはbを使います。

記法 意味
C4 中央のド メロディの基準音
F#3 ファのシャープ 半音上げ
Bb5 シのフラット 半音下げ
C2 低いド ベースライン用
bpm 120
scale C4 major

pattern melody {
  synth: [C4 . E4 . G4 . E4 .]
}

play melody * 4
試す

ピッチ付きヒット

x:C4の形式で、ヒットにピッチを付けられます。 これは808ベースなど、サンプルをピッチシフトして再生したい場合に便利です。

bpm 90

pattern bassline {
  bass: [x:C2 . . . x:G1 . . . | x:A1 . . . x:F1 . . .]
}

play bassline * 4
試す

プロのTip: ベースラインはオクターブ1〜3(C1〜C3)を使うのが一般的です。 メロディはオクターブ4〜5(C4〜C5)が聴きやすい範囲です。

ベロシティとピッチの組み合わせ

x[0.5]:C4のように、ベロシティとピッチを組み合わせられます。 これで表現力豊かなメロディが作れます。

記法 説明
C4 ノートのみ(ベロシティ: 0.8)
x:C4 ヒット+ピッチ(ベロシティ: 0.8)
x[0.5]:C4 カスタムベロシティ+ピッチ
X:C4 アクセント+ピッチ(ベロシティ: 1.0)
bpm 100

pattern expressive {
  // ベロシティとピッチを組み合わせた表現力豊かなフレーズ
  synth: [C4 . x[0.6]:E4 . X:G4 . x[0.5]:E4 . | D4 . x[0.6]:F4 . X:A4 . x[0.5]:F4 .]
}

play expressive * 4
試す

スケール設定

scaleキーワードでスケール(音階)を設定できます。 これにより、曲の調性を明確にし、ノートの選択を簡単にします。

major

メジャー(長調)

minor

マイナー(短調)

pentatonic

ペンタトニック

blues

ブルーススケール

dorian

ドリアン

mixolydian

ミクソリディアン

ビートにメロディを加える

ドラムパターンにベースラインやメロディを加えて、完成度の高いトラックを作りましょう。

bpm 120
scale C4 major

pattern beat_with_melody {
  kick:  [x . . . x . . . | x . . . x . . .]
  snare: [. . . . x . . . | . . . . x . . .]
  hihat: [x . x . x . x . | x . x . x . x .]

  // ベースライン
  bass: [x:C2 . . . x:G1 . . . | x:A1 . . . x:E1 . . .]

  // シンプルなメロディ
  synth: [C4 . E4 . G4 . E4 . | D4 . F4 . A4 . . .]
}

play beat_with_melody * 4
試す

ピッチ・音階のコツ

  • ベースは低い音(C1〜C3)、メロディは中音域(C4〜C5)
  • スケール内の音を使うと調和のとれたメロディに
  • ベロシティで強弱をつけて表現力アップ
  • 同じ音を繰り返すとリフ(繰り返しフレーズ)になる